■第3号 なぜサイレント・ベイビーができるのか2 (2005年11月21日) お母さんと赤ちゃんは、どのようにして心のやり取りをしているのでしょうか。このことがわかる例があります。お母さんと赤ちゃんを同じ布団やベッドで寝かせると、睡眠や覚醒のリズムが同じになるそうです。添い寝で赤ちゃんを育てている場合のほぼ8割は、そうしたリズムの一致があると観察されています。つまり、お母さんと赤ちゃんの間に知覚交換(心の情報のやり取り)が起こっているのです。 睡眠時以外でも、赤ちゃんが泣いて、いつもはすぐダッコしてもらえるのに、10秒、20秒遅れてお母さんがダッコしてくれると、この10秒、20秒待つことで「時間感覚」が生まれるのです。あるいは、お母さんが忙しくてすぐに来られないときに、何かの拍子で指を吸い、それがお母さんの肌と同じ温もりで、気持がいいことがわかると、指吸いを覚えます。この指吸いは、母親のいない心の隙間を、母親の肌と同じぬくもりのある自分の指を吸うことによって埋め、自分の心をなだめているのです。つまり、自分の心を自分でコントロールすることを学習したのです。この様な心の発達は、親にしっかり守られている、という実感の下で育っていくのです。 こうした子どもの心や知能は、一つひとつの経験の積み上げによって成長していくことが多いのです。ですから、赤ちゃん時代に、きめ細かな体験をした子どもは、その後の様々な人との交流で、より有利になるのです。例えば、積み上げを体験した子どもは、幼児期や少年期に、思い切り駆けっこすることや木登りをすることなどで、ストレスが発散されることを発見するかもしれません。 一方、前回お話しした、乳児期前期で生存の欲求が満たされないと、心の成長が止まるか、少なくとも、歪んだ方向に心が成長し、心にキズが残り、人間らしい心が育っていない「サイレント・チルドレン」や「サイレント・アダルト」の出現を招くことになるおそれがあります。 心のキズで最も恐ろしいのは、欲求不満などではなく、絶望感や無力感という形で現れる心のキズなのです。何をしてもかまってもらえない、甘えも受け入れられないし、守られてもいないという、絶望感や無力感は、自分の生きていること自体が世界から拒否されていると心に刻み込んでしまいます。そして、周囲に対し積極的に要求を出さない、幼い自分の心の中に引きこもってしまう「サイレント・ベイビー」が生まれてしまうのです。 お母さんの対応が変わらず、心の癒しがないままに成長すると、絶望感・無力感は、赤ちゃんのその後の人生から、積極的により良く生きようとする意思や意欲を奪います。あるいは、積極的により良く生きようとする意思の足を引っ張りつづける重しのようになります。 積極的により良く生きようという意思が希薄であるということは、自分に対する関心が薄くなったことと言え、当然周囲に対する関心も薄くなり、生命や社会に対する現実感が乏しい少年や成人になるのです。 こうした少年や成人が、周囲から与えられ、本当の意味で自分のものになっていない常識や、良識では対処できないストレスに長期間さらされたときには、短絡的な爆発的行動にでる可能性が高くなるのです。その行動は、拒食症やある種の登校拒否、少女売春というような、自分自身を爆発させる行動か、周囲の動物や人間をいじめ、殺傷するというような外の世界に対する暴力行為に出るかなのです。 いかがでしたか。それでは、次回まで、健康で、楽しくお過ごしください。(^‐^) |